Part2
よく出合う症状の標準看護計画
④不眠
宮川 操 徳島文理大学保健福祉学部看護学科 准教授
標準看護計画
期待される結果(看護目標)
●患者の健康な睡眠パターン(以下1~4)を保ち、量・質ともに満足な睡眠が得られるようにする。
1.睡眠を障害する要因を除去し、睡眠環境の調節ができる。
2.不眠の訴えがない(健康時の睡眠状態に戻る)。
3.不眠の随伴症状が軽減・消失する。
4.生活への支障を起こさない。
[O-P]観察計画 |
看護計画 |
- ❶現在の睡眠の状況
- ❷睡眠を妨げる原因の有無
- ❸随伴症状の有無と程度
- ❹不眠に付随する生活上の影響の有無
- ❺不眠に対する検査結果、治療内容と効果・副作用
- ❻患者の睡眠に関する知識・理解度
- ❼バイタルサイン
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根拠・留意点 |
- ●上記の項目を観察することにより、不眠の種類や程度、原因を明らかにすることができる。
- ❺治療効果や期待される結果に近づいているかを判断することができる。
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[C-P]ケア計画 |
看護計画 |
- 1.睡眠環境を整える
- ❶室内環境
- ●夜間の不快な音・騒音を軽減する。
- ●個人の好みに合わせ、音楽を聴く。
- ●睡眠時は消灯または照度を低くする。照明を使用する場合は、患者の希望に合わせた照度や間接照明など光が直接顔面にあたらない工夫をする。
- ●病室の温度・湿度を調節し、換気を行い、室内気候を整える。
- ●不快なにおいを除去する。
- ●患者の好みに合わせ、ラベンダーオイル・オレンジオイル・カモミールなどアロマオイルを使用する。
- ❷寝具・寝衣環境
- ●寝床気候を整える。
- ●マットレスや枕は吸湿性・通気性・弾力性のあるものにする。
- ●寝返りが打ちやすいよう、掛け布団の重さを調整したり、足元をゆるくする。
- ●寝具の硬さを患者の好みに合わせ、寝心地をよくする。
- ●寝衣はゆったりしたものを着用する。
- ❸カーテンの使用など、プライバシーが守られた環境とする。
- 2.生活リズムを整える:同調因子を強化する
- ❶光の調節:朝方に強い光を浴びる。カーテンを開け、太陽光を取り込む。夜間は無用な光刺激を与えない。
- ❷規則正しい食事:朝食を摂取する。入眠前の空腹や飽食を避ける。
- ❸適度な運動:日中の活動を促す。
- 3.睡眠習慣を整える
- ❶身体加温、入浴、足浴によりリラクゼーションを促進する。
- ❷就寝儀式:本を読む、イブニングケア(歯みがき、洗顔など)を行う。小児の場合では、お気に入りのぬいぐるみやタオルなども就寝儀式となる。
- 4.心身の苦痛緩和・安楽への援助
- ❶不安・興奮の軽減
- ❷身体的苦痛の緩和
- 5.睡眠薬の適正な使用
- ❶指示された睡眠薬の投与を行う。
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根拠・留意点 |
- 1-❶睡眠時の音は40デシベル以下が望ましい。連続騒音よりも間歇的・断続的な騒音のほうが眠りを浅くする。
- 1-❶夜間のME機器、同室者のいびき、ドアの開閉音、勤務交代時の看護師間の話し声、足音などで生じる音を軽減する。
- 1-❶睡眠を障害する騒音には個人差があるため、個人の状況や好みを考慮し対策を検討する。
- 1-❶100ルクス以上では睡眠が障害され、逆に真っ暗では不安感が強まり眠れないなど個人差がある。
- 1-❶夜遅くまで高照度の環境でいると、生体リズムの夜型化や不規則化を生じ、眠ろうとしても眠れなくなる。メラトニン分泌を妨げないように部屋の明かりを暗くする。
- 1-❶照明は30ルクス以下で青色より赤色の光が睡眠には望ましい。
- 1-❷睡眠時の最適温度・湿度は、夏季25~28℃、65%、冬季16~20℃、60%とされている。
- 1-❷暖かすぎる寝床温度は睡眠の深度が浅くなり、温度が高い場合には湿度が高いほど睡眠が障害される。
- 1-❷寝床気候は温度33℃、湿度50%くらいが最も安眠できるとされているが、環境や年齢などにより個人差がある。
- 1-❷寝床に必要な条件には衛生的条件と人間工学的条件がある。
- 1-❷ひと晩に寝具に吸収される発汗や不感蒸泄は200mL程度であるため、敷布団は吸湿性・透湿性に富んだ素材が適している。
- 1-❷臥床したときは背部から殿部に圧力が強くかかるので、それを支持できるかたさが必要である。体動や寝返りをしやすくし、疲れにくくするには、からだが沈み込まない程度の適当な弾力性が必要である。
- 1-❷枕の高さは高すぎると頸椎が前屈し、極端な場合は呼吸が困難になる。寝たときの姿勢が自然立位の姿勢(脊椎骨のS字)を崩さないように、身体に合った寝具の選択と調節をする。
- 1-❷枕は、かたすぎると頭部表面を圧迫してしびれ感を起こし、やわらかすぎると頭部が沈み込んで頭部の温度が放散されず寝苦しい。
- 1-❸からだを締め付ける下着や寝衣は緊張感を与え、覚醒中枢を刺激して睡眠を阻害する。
- 2.同調因子には光や食事がある。特に、朝、太陽光を浴びることは体内時計をリセットすることに効果がある。
- 2-❶深夜のテレビ視聴、パソコンや携帯電話の操作は大脳を活性化し入眠障害、中途覚醒の原因となる。
- 2-❷朝食で摂取した必須アミノ酸(トリプトファン)は昼間に太陽光を浴びることで、セロトニンに合成されヒトを活動的にするとともに、セロトニンからメラトニンが合成され睡眠に導くため規則正しい朝食は重要である。
- 2-❸適度な疲労により良好な睡眠を得られる。昼寝をする場合は、15時までに20分程度とする。
- 3-❶身体加温は睡眠潜時を短縮させる。
- 3-❶入眠前の足浴・手浴やぬるめの湯での入浴は、副交感神経を緊張させ鎮静・催眠効果を起こす。また、末梢血管の拡張による放熱で深部体温が低下し、睡眠導入状態をつくり入眠を促す。
- 3-❶足浴や手浴は40~42℃のお湯で10分程度、入浴は冬季40℃前後、夏季38℃前後が適している。熱い風呂は交感神経活動を高めるため避ける。
- 3-❷イブニングケアや就寝儀式は睡眠への導入に有用である。
- 4-❶不安などの不快感は交感神経の支配が優位になり、不眠の原因になる。
- 4-❶特に夜間は不安感が増大する。不安が入眠を阻害し、入眠できないことがさらなる不安を引き起こすことがある。
- 4-❶患者の訴えを傾聴し、不安の軽減を図る。
- 4-❷疼痛や瘙痒感など原因となる疾患・症状に対して対症療法を行う。
- 4-❷夜間の排尿回数が多い場合は、夕方からの水分摂取量を減らすようにする。
- 4-❷身体的・精神的緊張を取り除くことを目的としたリラクゼーション技法として、呼吸法や漸進的筋弛緩法などを取り入れる。
- 5.高齢者、肝臓や腎臓の機能が低下している場合には副作用の出現に留意する。
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[E-P]教育計画 |
看護計画 |
- ❶睡眠を促す患者教育を実施する。
- ❷睡眠衛生指導(睡眠障害対処の12の指針)
- ❸服薬指導
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根拠・留意点 |
- ❶正常なサーカディアンリズムを取り戻すために、生活習慣を規則的にし、適切な睡眠環境を整え正常化させる。
- ❷睡眠を阻害する飲食物や嗜好品、パソコンなどのメディアの制限をする。
- ❷寝酒を不眠対策とする人が多いが、睡眠に対する正確な情報を提供する必要がある。
- ❸本人の判断で睡眠薬を中止することによって不眠が増悪する場合があるため、指示どおりに服用することを指導する。
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