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看護計画
監修 小田正枝 徳島文理大学 名誉教授
実習でよく挙げる看護診断やよく出合う症状の標準看護計画を紹介します。

Part2
よく出合う症状の標準看護計画

①呼吸困難
窪田惠子 福岡看護大学 学長 基礎・基礎看護部門 教授

標準看護計画

期待される結果(看護目標)

気道の清浄化をはかり、適正な酸素化を維持する。

呼吸困難に伴う不安や恐怖心が軽減される。

自己の呼吸機能に応じた生活調整ができる自己管理能力を確立する。

日常生活を整え、体力を維持する。

[O-P]観察計画
看護計画
  • 一般状態
  • バイタルサイン、意識状態、顔色、爪床色、チアノーゼの有無
  • 呼吸状態
  • 呼吸数、リズム(呼気と吸気の長さの比率)、深さ、呼吸音、喘鳴、努力性呼吸、咳嗽、呼吸の型
  • 喀痰喀出状態
  • 喀痰の色、粘度、量、臭気、血痰
  • 胸郭の形態と動き
  • 変形、胸部の樽状化、異常突出や陥没、左右の形、呼気と吸気の胸郭の拡大と縮小
  • 呼吸筋(肋間筋、横隔膜、肋骨挙筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋、大胸筋、斜角筋群、腹直筋)の動き
  • 発症状況(突発的、持続的、発作的)
  • 体位(仰臥位、起座位、側臥位)による変化があるか。
  • 生理的誘因との関連の有無
  • 年齢、体格、発熱、労作、喫煙
  • 身体的誘因との関連の有無
  • 基礎疾患、治療、薬物の種類、アレルギー
  • 精神的誘因(興奮、ストレス)との関連の有無
  • 呼吸困難の持続時間、頻度、程度
  • 呼吸時の姿勢(起座呼吸、口すぼめ呼吸)
  • 感染徴候
  • 水分出納バランス
根拠・留意点
  • 呼吸困難の病態は、呼吸器疾患だけでなく、その他の原因疾患、加齢による影響、環境要因など、多様である。そのため、自覚症状と客観的症状を観察し、アセスメントすることが重要である。
  • 呼吸困難の出現状況や経過を把握することは、呼吸困難の原因を明らかにする手がかりとなる。また、治療 ・処置の緊急性や検査の必要性を理解して看護を実践するための根拠になる。
[C-P]ケア計画
看護計画
  • 1.気道の清浄化を図り、適正な酸素化を維持する。
  • 喀痰喀出を促す。
  • 咳嗽を促し、喀痰を喀出する(咳嗽や喘鳴、喀痰貯留音出現時、呼吸困難時、PaO低下時など)。
  • 排痰法  :  叩打法、体位ドレナージ、スクイージング
  • リラクゼーション:腹式呼吸
  • 気管内加湿法
  • 水分の補給
  • 薬液吸入、ネブライザー
  • 口腔内、鼻腔内、気管内吸引
  • 酸素吸入を指示どおり行う。
  • 使用機器、物品の観察(指示された酸素流量、酸素濃度、マスクやカニューレの装着状況、加湿)
  • 一般状態の観察(顔色、爪床色、呼吸パターン、肺音、バイタルサインの変化、動脈血ガス分析値、動脈血酸素飽和度、パルスオキシメータなど)、低酸素症状、高炭酸ガス症状
  • 2.呼吸困難に伴う不安や恐怖心が軽減される。
  • 死の不安や恐怖の気持ちを受け止める。
  • 過換気症候群に対しては、できるだけ安心してもらえるようにし、ゆっくり呼吸をするよう指示する。
  • ゆっくり落ち着ける環境整備
  • 安楽な体位の工夫
  • 半座位、起座位、罹患部を下にした側臥位
  • 呼吸筋の運動を妨げない。
  • 衣服をゆるめる。
  • リラックスできる体位
  • 酸素療法中の精神的ケアを行う
  • 酸素療法の必要性、注意事項を説明し、協力を得る。
  • 酸素マスクの圧迫感の訴えを傾聴し、不具合を調整する。
  • 3.日常生活を整え、体力を維持する。
  • 酸素消費量を増加させない日常生活動作や活動を調整する(活動量、食事、清潔、排泄など)。
  • 栄養状態を整える。
  • 十分な睡眠を確保する。
  • 感染予防
根拠・留意点
  • 1-❶必要な換気量を確保するためには、気道を確保し、喀痰を喀出して気道を清浄にすることが重要である。気道分泌物を喀出しやすくするために、分泌物の粘稠度を低下させ、体位を工夫し、呼吸面積を確保する。座位は、横隔膜が下がり、胸郭運動も大きくなり、肺の伸展運動を活発にし、肺の換気面積を大きくする。片側に罹患部がある場合は、罹患部を下にして側臥位をとり、健側肺の呼吸面積を確保する。
  • 1-❶呼吸器の感染症やアレルギーにより気道分泌物が増加し、咳嗽や喀痰を誘発する。疼痛や体力低下があると、喀痰の喀出がしにくい。また、空気の乾燥や分泌物の停留は、気管壁や肺胞内への沈殿を起こさせる。これを予防するために、背部からのタッピングにより物理的に気道内から排出させる。体位ドレナージにより、気管支の走行、貯留部位が重力方向に対して垂直になるような体位とし、効果的な喀痰喀出を促す。
  • 1-❶腹式呼吸は、十分な酸素を取り込んで組織に運び、末梢循環を促し、老廃物の回収を促進する。呼吸筋と腹筋の脆弱化を防ぎ、肺活量の低下を抑え、喀痰喀出を容易にする。
  • 1-❷気道を加湿し、気道分泌物の粘稠度を下げ、喀出しやすくする。
  • 1-❷気道内の粘稠性の分泌物を吸引し、気道閉塞を防ぐ。吸引カテーテルが太く、吸引圧が強すぎると、気道中の空気を多量に吸い込み、低酸素血症を起こす。
  • 2.不安や精神的ストレスにより心拍数の増加、呼吸促迫が起こり、換気量が増す。腹式呼吸で深く、呼気をゆっくりして行うと迷走神経が刺激され、心拍数を低下させることができる。
  • 2-❷紙袋を口に当て呼気を再吸入するペーパーバッグ法は、過度の血液中の酸素濃度の低下や二酸化炭素濃度の上昇をまねくおそれがあり注意が必要である。
  • 2-❸室温・湿度を調整し、常に清浄な空気を保つ。
  • 2-❹呼吸筋や呼吸補助筋の緊張を取り除き、動きを妨げない安楽な体位が酸素消費量を少なくする。
  • 3.日常生活における負担は、酸素消費量を増加させることになる。ただし、過度の安静は活動性の低下を招く。
  • 3-❶入浴は体熱を上昇させ、食事の摂取は消化吸収により酸素消費量を増大し、呼吸を促進する。
  • 3-❶過食や便秘などによる鼓腸は、横隔膜を圧迫し、胸郭運動を阻害する。食事摂取量低下、活動量低下により便秘になりやすい。便秘による腹部膨満は横隔膜を圧迫し、呼吸困難の誘因になる。
  • 3-❶❷食事動作や消化吸収そのものがエネルギー消費量を高める。食事摂取による胃部の膨満は横隔膜を圧迫するので、呼吸困難を増加させる。食欲不振は低栄養状態、免疫力の低下につながる。
  • 3-❸息苦しさによる睡眠障害と全身の疲労も大きいので、休息が必要である。
  • 3-❹気道の清浄化と口腔内の清潔を保持し、呼吸器感染を防ぐ。
[E-P]教育計画
看護計画
  • 呼吸困難の原因について理解できるように説明する。
  • 生理的因子、原因疾患の病態  ・  治療
  • 呼吸困難の出現を予防する生活習慣の必要性について説明する。
  • 原因疾患の治療の継続とその管理の必要性
  • 緊張やストレスを軽減する生活の必要性
  • 発作時の家族の対応
  • 心身の過労を軽減する生活の必要性
  • 禁煙の必要性
  • 活動の制限  :  仕事量、運動、趣味、性生活など
  • 感染予防
  • 自己の呼吸機能を理解し、自己管理できるように説明する。
  • 呼吸困難に気づいたときの連絡方法・対処方法について説明する。
  • 家族からの協力が得られるように、患者の現状について説明する。
根拠・留意点
  • 呼吸困難の原因、治療の必要性が理解できることが重要である。
  • 患者が呼吸困難について正しく理解し、随伴症状などからあらかじめ予防策を講じた生活ができることが重要である。
  • 健康管理行動がとれるようになり、呼吸困難の出現を予防することができる。
  • 呼吸困難を誘発するような生活行動を避けるように、患者のこれまでの生活状況を把握したうえで説明や指導を行う。
  • ❷❺行動制限のなかでの生活の楽しみが見つけられるように、家族のサポートも得て、ストレスが増大しないよう留意する必要がある。
  • ❷❸心臓仕事量を下げる日常生活の過ごし方が理解できるような指導が必要である。
  • ❸❹❺患者が自己管理できるための行動変容への支援が重要である。療養期間が長期化するので、患者だけでなく家族への支援や教育指導が必要である。
リンク

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